正直に告白すると、私はコーヒーが大好きで、休日はよく喫茶店を巡っています。
深煎りの、あの苦味がたまらない。
だからこそ、コーヒーが苦手だという人に出会うと、その理由が単純に気になっていました。
同じコーヒーを飲んでいるはずなのに、なぜここまで感じ方が違うのだろう。
せっかくなので、しっかり調べてみることにしました。
調べていく中で見えてきたのは、コーヒーが苦手な人の多くが、「コーヒーが飲めないなんて子供っぽい」「大人になればそのうち飲めるようになる」といった言葉を投げかけられ、引け目を感じているという実情。
根性が足りないわけでも、大人になりきれていないわけでもないのに、なんとなく引け目を感じてしまう。
そんな人は意外と多いんじゃないでしょうか。
苦味の感じ方そのものに、生まれつきの個人差があることがいくつもの研究でわかっています。
今回は、その仕組みを少し掘り下げてみます。
この記事を読むとわかること
- コーヒーの苦味を感じる原因がわかる
- 苦味に関する研究について知れる
- 苦味と遺伝子の関連性について知れる
コーヒーの苦味を感じる強さは、実は遺伝子で決まっている

「苦手なのは自分の努力不足なのでは」と思っている人にこそ知ってほしいのが、苦味の感じ方を決めているのは体質そのものだという事実で、まずはその仕組みから見ていきます。
苦味は「体を守るためのセンサー」だった
そもそも苦味というのは、体に有害なものを口に入れてしまわないよう、動物が生まれつき備えている警戒センサーのようなものです。
子どもがピーマンやゴーヤを嫌がるのも、この仕組みが働いていることが要因。
毒になりうるものを避けるための本能なので、「苦い=まずい」と感じること自体は、むしろ自然な反応だったわけです。
コーヒーの苦味も、この仕組みと無関係ではありません。
TAS2R38という遺伝子が苦味の感度を左右する
この苦味を受け取っているのが、TAS2R38という遺伝子がつくる苦味受容体です。
一言でいうと、特定の苦味物質(PTCやPROPと呼ばれる化合物)への感じやすさを左右する遺伝子。
TAS2R38には個人差があり、大きく分けると「苦味に敏感なタイプ」と「苦味を感じにくいタイプ」が存在します。
同じものを口にしても、そもそも受け取っているセンサーの性能が人によって違うわけです。
苦手なのは「克服できていない」のではなく体質
「苦手を克服できていない」のではなく、最初から感度の違うセンサーを持って生まれてきた、と考えるとちょっと気が楽になりませんか。
ミルクや砂糖でごまかしたり、浅煎りから徐々に慣らしたりといった工夫は、たしかに飲みやすくはしてくれます。
それでも「センサーの感度そのもの」が変わるわけではない、というのが今回の話のポイントです。
コーヒーが「苦味に敏感な人」と「鈍感な人」では感じ方が何十倍も違う

この個人差、実際にどれくらいの大きさなのか気になりませんか。
具体的な数字を示した研究があるので紹介します。
大阪大学の研究が示したコーヒーの苦味感度「50倍」という差
この差、実はかなり大きいものだということもわかってきました。
大阪大学の研究グループが2023年に発表した論文(Aoki et al., Nutrients 2023)によると、この遺伝子のタイプによって苦味の感度が大きく異なり、感度の高い人と低い人とでは、実に10倍から50倍もの差があったといいます。
(大阪大学のプレスリリース 個人の味覚感度の数値化に成功にも詳しく書かれています)
10倍から50倍。
なかなかのインパクトのある数字だと思います。
感度の低い人からすれば「そんなに苦くないのに」と思うような濃度でも、感度の高い人にとっては強烈な苦味として感じられている、ということが十分にあり得るわけです。
コーヒーの苦味は根性や我慢では埋まらない差
大げさに苦がっているのではなく、体感している苦味の強さそのものが、そもそも別物である可能性がある。
根性や我慢でどうにかなるレベルの差ではない、というのが正直なところだと思います。
「何度も飲んでいるうちに慣れる」という話をよく聞きますが、それはおそらく苦味への耐性や慣れが多少ついているだけで、感度そのものが鈍感なタイプに変わっているわけではなさそうです。
感じている苦味の強さ自体は、生まれ持ったセンサーの性能に左右されたままなのだと思います。
この個人差、コーヒーの苦味そのものにも関係している

ここまではTAS2R38というひとつの遺伝子を中心に見てきましたが、実は人の苦味受容体遺伝子は、TAS2R38を含めて約25種類あるといわれています。
それぞれ反応する苦味物質が少しずつ違っていて、コーヒーの苦味に関しては、TAS2R38とは別の遺伝子が関わっているという研究もあります。
TAS2R3・TAS2R4・TAS2R5とエスプレッソの苦味
苦味受容体遺伝子のいくつかのタイプ(TAS2R3・TAS2R4・TAS2R5)は、エスプレッソコーヒーの苦味の感じ方にばらつきが出ることと関連があるとわかっています。
TAS2R38が特定の苦味物質にしぼって反応するのに対して、TAS2R3・TAS2R4・TAS2R5はさまざまな苦味物質に幅広く反応するタイプの受容体です。
実はこの研究、コーヒーだけでなく複数の飲料を対象に、苦味受容体遺伝子との関連を調べています。
2011年に Chemical Senses 誌に掲載された論文(Hayes et al., Chemical Senses 2011)によるもので、結果を整理すると、以下のようになります。
| 対象の飲料 | 関連する苦味受容体遺伝子 | 研究でわかったこと |
| エスプレッソコーヒー | TAS2R3・TAS2R4・ TAS2R5(ハプロブロック) | 苦味の感じ方のばらつきと関連があった |
| グレープフルーツジュース | TAS2R19(SNP変異) | 苦味の感じやすさが増し、好みが下がることと関連していた |
| アルコール(スコッチウイスキー) | TAS2R16・TAS2R38 | 摂取量との相関は見られたが、味の感じ方や好みそのものは、これらの遺伝子だけでは説明できなかった |
コーヒーの苦味に限らず、グレープフルーツの苦味やお酒の飲みやすさにも、同じように遺伝子が関わっている可能性があるというのは、なかなか興味深いところです。
ただし、アルコールの結果を見てもわかるように、遺伝子だけですべてが説明できるわけではなさそうです。
「コーヒーが平気な人」と「無理な人」がいる理由
「コーヒーの苦味が平気な人」と「どうしても無理な人」がいることには、遺伝子レベルの裏付けがあるといえそうです。
苦手な理由を「味覚の好み」や「慣れの問題」で片付けられがちですが、そもそも受け取っているセンサーの精度が違うのだとすれば、無理に好きになろうとする必要もなさそうに思えてきます。
遺伝だけでは説明しきれない部分もある

ここまで遺伝子の影響を中心に見てきましたが、それがすべてというわけではありません。
おそらく読者の皆さんも懐疑的な目線を持っていらっしゃると思います。
苦味の感じ方の違いは遺伝子で説明できるのはおよそ2割
すべてを「遺伝子のせい」にしてしまうのも少し乱暴な話です。
ある研究では、苦味の感じ方の違いのうち、遺伝子によって説明できる割合はおよそ2割程度だと見積もられています。
残りの部分には、育った家庭環境やこれまでどんな味に慣れてきたかといった、経験による影響も関わっていると考えられます。
家庭環境がコーヒーへの苦手意識に与える影響
遺伝子で苦味の感じやすさの土台は決まっているけれど、そこに経験も上乗せされていく。
そんなイメージが実態に近いのだと思います。
子どもの頃コーヒーに触れる機会がなかった家庭で育った人が、大人になっても苦手なままというケースが多いのも、この経験の部分が影響しているのかもしれません。
「苦手を直す」ではなく「体質を知る」という視点へ
ここまでの内容をまとめると、苦味を感じるセンサーの感度が、生まれつき高いタイプである可能性がある。その感度の差は、何十倍にもなることがある。
コーヒーの苦味の感じ方についても、遺伝子との関連が確認されている。
根性が足りないわけでも、大人になりきれていないわけでもありません。
単に、そういう体質だった、というだけの話なのです。
だとすれば、「頑張って克服しなければ」と気負う必要はなく、「自分はもともと苦味に敏感なタイプなんだな」と体質として受け止めてしまうほうが、ずっと気持ちが楽になるでしょう。
まとめ
苦味に敏感だということは、決して弱点ではありません。
むしろ、味覚のセンサーがしっかり働いている証拠。
コーヒーが苦手なことに、これ以上引け目を感じる必要はなさそうです。
私自身はこれからも喫茶店に通い、コーヒーの苦味を楽しみ続けるでしょう。
ただ、今回いろいろ調べてみて、それはあくまで私の感度がたまたまそうだった、というだけなのだとよくわかりました。
「コーヒーが苦手な人もいずれ好きになるべき」というものでは決してなさそうですね。

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